BRIEFING.592(2023.01.05)

下駄履きマンションの合理性

路面店舗が成り立つ程度の繁華性はあるものの、事務所ビルや店舗ビルを建てるほどではない商業地域においては、低層階部分のみが、事務所または店舗として利用されているマンション、いわゆる下駄履きマンションが多く見られる。1階がコンビニエンスストアで2階以上は住宅といった構成なら、相乗効果も期待できる。1階が焼き鳥屋やラーメン屋なら、騒音や臭気の問題があって微妙である。

さて、建物の階層によって、その効用は異なるが、その用途によってもまた異なってくる。住宅なら、上の階の方が日当たりも眺望も良くて人気があるから賃料も高く取れる(即ち効用が高い)。逆に1階はそれらが悪く防犯上も心配があって賃料は安くなる(効用が低い)。だが事務所・店舗なら、来客の見込める1階の賃料が高く(効用が高く)、上の方は何階でもあまり変わらない。

そうすると、階層別の効用比(単位面積当たりの効用の比)は、住宅なら下図@、事務所・店舗ならAのような感じだろうか。6階建で、2階の事務所の効用を基準(100)として査定した。

効用図

概して言うならば、住宅なら上の方が良く、事務所・店舗なら下の方が良い。では、いいとこ取りをして、下の方は事務所・店舗に、上の方は住宅にすればどうだろう。

Bはその考えを取り入れた図で、1階が店舗、2階が事務所、3〜6階が住宅といった下駄履きマンションである。これら3棟の各階の効用比を合計すると、それぞれ516、570、601となり、下駄履きマンションの合理性が示される。なお、もう少し正確に検討するには、各階の有効面積(1階は玄関等が必要で他階より狭くなりがち)をそれぞれの階の効用比に乗じ、その結果(効用積数という)の合計で比較しなければならない。ここでは煩雑さを避け、各階の有効面積が同じと仮定して効用比の単純合計で比較してみた。

街の中でよく見られる下駄履きマンション、その合理性は以上のように説明できる。

ただ、1階を店舗にして高い賃料を取るのばかりが合理的とは限らない。それ自体には効用がない(賃料が取れない)ものの、1階に、たとえば広い駐輪場やメールコーナー、宅配ボックス等を備え、あるいは豪華で広々としたエントランスを設ける手もある。1階の効用(賃料)を捨て、共用部を充実させて、上階の住宅や事務所の効用をそれ以上に高めることができるかも知れない。たとえばCのようなマンションである。ちなみにこの効用比を合計すると601になる。ここでは意図的にBと同じにしたが、いずれが合理的かはその地域性を踏まえて判断する必要がある。


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