BRIEFING.594(2023.02.27)

不動産投資法人間の売買と鑑定評価額

大阪市北区の北新地のある事務所ビルの敷地には「堂島薬師堂」が祀られている。1999年、ビルの建設に合わせて新たに建替えられたもので、2004年にはここで「第1回堂島薬師堂お水汲み祭り」が開催され、翌年からは地元の節分行事と融合して「堂島薬師堂・節分お水汲み祭り」として継続されてきた。近年は新型コロナウイルスの影響で縮小されていたが、今月、3年ぶりの本開催となった。

伝統行事のようにも見えるが、実は地元経済界が提案し発展・定着させた行事である点が面白い。もう伝統と言ってもよいかも知れない。

僧侶によるお水汲み、護摩焚き、声明(しょうみょう)の他、龍や「北新地クイーン」の巡行、さらに鬼が北新地を徘徊して人々を怖がらす催しもある。鬼は白昼堂々と近代的なオフィスへも乱入し、夕方には店舗に殴り込む。そのお面の恐ろしさは日が落ちると増す。予想以上の大胆な動き、意外な素早さには驚かされる。

そのビルからほど近いある事務所ビルは、2つの高層事務所棟と低層の商業棟とからなる。その事務所棟の1つと商業棟の一部は信託受益権という形をとって、2004年6月にある不動産投資法人に譲渡され、2017年3月にはその不動産投資法人が、他の不動産投資法人にこれを譲渡している。

売主は日本ビルファンド投資法人、買主はインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人である。不動産投資法人間の売買であった。

買主側の発表資料(2017年3月)によると、取得価格は1,910百万円。契約日は2017年3月30日、取得日は翌31日である。鑑定評価額は2,010百万円(価格時点2017年2月28日)であった。また「念のため、上記鑑定評価に加えて他の鑑定評価機関による鑑定評価」も取得しその額を公表しており、それは2,020百万円(価格時点は同上)であった。その差わずか0.5%でほぼ一致と言ってよいだろう。

売主側の発表資料(2017年3月)によると、譲渡価格は1,910百万円で、当然ながら買主側の取得価格と同額である。契約日は2017年3月30日、引渡日は翌31日でこれも買主側と一致している。しかし鑑定評価額は1,470百万円(価格時点2016年12月31日)で大きく異なる。買主側鑑定評価より価格時点が2か月前ではあるが、鑑定評価額が27%も低い。もちろん、鑑定評価機関が先ほどの2者とは別だから異なる鑑定評価額が出てもおかしくはないのだが・・・・。

取得・譲渡価格と、それぞれの鑑定評価額の関係は次の通りである。

(買主鑑定)2,020〜2,010百万円 > (取得=譲渡)1,910百万円 > (売主鑑定)1,470百万円

売主・買主は、それぞれの投資家に対し次のように説明したかったのだろうか。

買主・・・鑑定評価額より少し安く買えましたよ。
売主・・・鑑定評価額よりかなり高く売れました。

業界関係者なら少しも驚かないかも知れないが、投資家はどう思うだろうか。

北新地を徘徊する恐ろしい鬼は、銅鑼の音を伴って事務所や飲食店に押し入って暴れる。そこで店主や従業員側はあらかじめ用意していた豆を投げつけて退散させる。しかし本気で襲い掛かる鬼はいないし、力いっぱい豆を投げつける店主や従業員もいない。皆、笑顔でそっと豆を投げている。予定通りのお芝居である。

不動産鑑定評価がもちろんそうではないことを、「念のため」申し上げておく。


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