BRIEFING.596(2023.04.07)

「賃貸等不動産」と不動産の「類型」

財務諸表にその時価の注記が求められている「賃貸等不動産」は、企業会計基準において次の通り定義されている。

「賃貸等不動産」とは、棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産(ファイナンス・リース取引の貸手における不動産を除く。)をいう。したがって、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている場合は「賃貸等不動産」には含まれない。

上記「賃貸収益の獲得を目的として・・」は不動産鑑定評価の「類型」で言えば「貸家及びその敷地」であり、「キャピタル・ゲインの獲得を目的として・・」は通常「自用の建物及びその敷地」であろう。そして「したがって」以下で排除されるものは「自用の建物及びその敷地」に当たる。

さて、所有するビルの一部を賃貸している場合、「一棟の建物及びその敷地」の一部が「賃貸等不動産」ということになる。そしてその部分の価格を鑑定評価によって求める場合には、自用の部分(対象不動産ではない)を合理的に区分して除外しなければならない。

このような場合、もしここで求めるべき時価が、実際に売却し得る価格であるとするならば、その前提として両者を専有部分として区分登記することが可能でなければならない。そうすると「構造上・利用上の独立性」といった面倒な検討も必要となってくるし、その実現のための工事や表示登記の費用をも勘案する必要が生じる。加えて、不合理な区分となるならビル全体の減価を見る必要もあろう。だが、評価の目的に鑑みそこまでは検討しないのが実務上の扱いである。

では、入居者募集中、またはその準備中の空室をどう考えるべきだろうか。自用と見れば除外すべきだが、賃貸収益目的と見れば「賃貸等不動産」だ。

この点、鑑定評価では一時的な空室も「自用の建物及びその敷地」と扱うのが原則だ。しかし企業会計基準には「一時的に借手が存在していない不動産についても、賃貸等不動産として取り扱う。」という規定がある。鑑定評価では借家権の有無を重視し、企業会計では賃貸収益目的か否かに着目しているのだ。なお税務上の扱いは後者に近いが、認められる空室期間は結構限定的である。

また、連結対象子会社の賃借部分は自用とみなされるため、「賃貸等不動産」には含まれない。


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