BRIEFING.597(2023.04.20)

収益還元法における修繕費の標準化と対象不動産の個別性(1)

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である。そしてこの手法による試算価格を収益価格という。この収益価格を求める手法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(直接還元法)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格をその発生時期に応じて現在価値に割り引きそれぞれを合計する方法(DCF法)とがある。

上記の1つ目、直接還元法における純収益は、対象不動産の直近の純収益を採用する場合と標準化された純収益を採用する場合とがある。そして直近の純収益が長期安定的でないと考えられる場合には、それを踏まえた還元利回りで還元する必要がある。

さて、純収益は総収益から総費用を控除して求められるが、対象不動産が安定的に稼働している賃貸ビル・マンションの場合、総収益は概ね安定的である。しかし総費用は波が大きい傾向にある。日常的な維持管理費、建物の小修繕費は毎年安定的であっても、それ以外に、数年あるいは十数年に一度の大規模修繕が必要となる年があるからである。

昨年までは年100万円前後だったのが、今年は3,000万円、といったこともあろう。その総費用の波は、純収益の波となって収益価格に大きな影響を及ぼすことになる。このような収益価格では、対象不動産の適切な価値を表すものにはなり得ない。

そこで必要となるのが、標準化という作業である。長期的に見て、安定的な総費用、延いては安定的な純収益を査定する訳である。凸凹を均す作業である。しかしそれは容易ではない。できる限り実態調査によりその標準的な費用の額を求める必要があるが、過去の実績が把握困難な場合も多いし、仮に把握できても具体的な算出方法があるわけでなし、主観的な判断の介在も避けられず、その適否を審査する物差しもない。

仮に、過去数年間の総費用(もし分かれば)の平均を取るとしても、大きな修繕費があった年を含むか否かでその平均値は相当に変動する。ここ数年、大きな修繕費が続いたからその傾向を承継すべきという考え方もある一方、それだからこそ今年からしばらくは大きな修繕はないと考えることもできる。勿論、実績や予定は参考になるが、所有者も予測しえない大規模修繕が急に必要になることも珍しくなく、結局のところよく分からない。

ならば、一般的な同種建物の修繕費を採用とすべきとも考えられる。例えば、年に建物再調達原価の1%程度といった具合だ。だがそれでは、現実の対象不動産の修繕費の個別性が反映され難い。両者を調整した上での標準化、平準化が望まれる。


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