BRIEFING.598(2023.04.27)

収益還元法における修繕費の標準化と対象不動産の個別性(2)

建物の修繕費は年によって増減があり、特に大規模修繕費は波が大きく予測が難しい。したがって、その凸凹を均す作業、即ち標準化、平準化も容易ではない。

そこで、波のある大規模修繕費を総費用に加えず、還元利回りに包含する(その分、率を上げる)という方法もある。大規模修繕費を考慮しない純収益(≒運営純収益)を、それを織り込んだ還元利回りで還元するのである。予測が難しい大規模修繕費をうやむやにし、うやむやなりの還元利回りで還元しようという訳だ。

一方、多くの不動産投資家が、運営純収益を基礎に不動産の価格を査定しているのも事実である。うやむやなりの還元利回りの相場も形成されていると言ってよいだろう。

ちなみに、収益還元法の2つ目、DCF法(特に証券化対象不動産の場合)においては、総収益、総費用、純収益に換えて、運営総収益、運営総費用、運営純収益という概念を用い、費用に資本的支出(≒大規模修繕の費用)を含まない経常的な収支を把握する(その検証として適用する直接還元法においても同様)。このことは、運営純収益が、投資家にとって重要で着目すべき数値であることを示唆している。

但し、DCF法においても、結局は運営純収益から資本的支出を控除してその年の純収益を求めている(一時金の運用益等についてはここでは煩雑になるため省略した)。直接還元法と同概念の「純収益」を求める前段階で一旦「運営純収益」を求めているのである。

ところで、年間の修繕費は建物の再調達原価に比例すると考えられている。不動産鑑定業界の通説といってよいだろう。

修繕費は建物の規模に連動するであろうことからすれば妥当な考え方である。また、修繕費も再調達原価も建設物価に連動するであろう点からも妥当である。しかし、修繕費を削減するために高価な塗装を施した、あるいは上等な資材を使っているという場合には、両者は反比例することになり、上記通説も怪しくなってくる。

現実には、空室が増えたらテコ入れのために大規模にリノベーションを、という運営方針もあるだろうし、外壁塗装は10年毎に行いその代わり賃料は高目、あるいは20年以上我慢し、賃料は安目、という運営方針もあろう。

その中で重要なのは、最有効使用、即ち「良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法」を想定して査定する姿勢であろう。


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