BRIEFING.599(2023.05.24)

分析すべき収益の期間−鑑定評価と企業会計

不動産の価格、中でも「貸家及びその敷地」の市場価格は、その生み出すであろう純収益に依るところが大きいと考えられる。したがって、その鑑定評価額は、3つの試算価格(積算価格、比準価格、収益価格)のうち収益価格を標準として決定される。「自用の建物及びその敷地」の鑑定評価額は3価格を関連付けて決定されるが、それが収益目的の不動産なら、やはり収益価格を重視して決定すべきであろう。

そして、これらの鑑定評価額が収益価格を重んじて求められる結果として、その市場価格がその不動産が生み出すであろう純収益によって形成されるようになってきたと言うこともできるだろう。

ところで、不動産鑑定評価が注目し分析すべき収益の期間は、どの期間であろうか。

還元の方法が永久還元の場合は、価格時点(鑑定評価の基準となる日)から永久の期間である。しかし遠い将来のことは、収益が上昇する場合でも下落する場合でもその影響は、今の時点において大きくない。将来のことは割り引かれて今の価格に影響を及ぼすに過ぎないからである。したがって、現実には、これからの1年間、またはこれからの数年間を標準化し、長期安定的な1年間の純収益を査定し、それを還元利回りで還元することになる。有期還元の場合は、これからの5〜8年間程度の毎年の純収益を査定し、それぞれの期間に応じてそれを現在価値に割引くことになる。それ以降については永久還元で求めることになる。

いずれにしても、注目し分析すべき期間は、価格時点以降の期間であることに変わりはない。したがってそこには予測、推定、想定、査定といった考えが介入する。将来のことは物差しで客観的に計れないから、主観の介在も避けられない。これまでの推移、過去の実績等も踏まえてではあるが、鑑定評価において目を凝らすべき期間は、あくまでも将来なのである。

これに対し、企業会計が注目し分析すべき収益の期間は、過去の1年間である。目を凝らすべきは過去なのである。これは両制度の本質的な相違点である。したがって、鑑定評価では当然に介入する予測や査定、そして主観は、企業会計において介在する余地はない。

但し、企業会計においても「時価」の重要性は増している。そしてそれは、過去ではなく将来に目を凝らして求めるべき価格である。そうすると、企業会計も予測や査定を併せ呑む必要に迫られる。一方の不動産鑑定評価はそれを丸呑みにしている訳だが、そこにできるだけ客観性を持たせるよう努めねばなるまい。


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