BRIEFING.608(2023.10.31)

「逆時点修正」の可否

不動産の価格を求める鑑定評価の手法の1つ、取引事例比較法において時点修正は、欠かせぬ手順の1つである。時点修正とは、取引事例に係る取引時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準に変動があると認められる場合に、当該取引事例の価格を価格時点の価格に修正することである。

価格時点とは、価格の判定の基準日である。一般に、鑑定評価を行った日(鑑定評価額を決定した日)は価格時点の数日前後、あるいはもう少し後である場合が多い。

一方、収集可能な取引事例の取引時点は、価格時点から数ヶ月程度前である場合が多く、両時点間の価格水準の差を埋める作業が必要となり、それが時点修正である。

時点修正に当たっては、把握している取引事例の取引時点までの傾向(上昇か下落か)が、価格時点まで続いているのか、加速しているのか、減速したのか、見極める必要がある。ひょっとすると反転しているかも知れない。それを様々な情報から推測しなければならないが、これにはどうしても主観が介在しがちである。それをできる限り少なくするため、取引事例の時点はできるだけ価格時点に近いものを選択するのがよい。

さて、鑑定評価を行う日が価格時点の1〜2ヶ月程度先であれば、価格時点以降の取引事例の収集が可能な場合もある。その場合、その事例については「逆時点修正」を行うことになる。しかし価格時点後の事例の採用には否定的な意見も多く、鑑定評価における論点の1つとなっている。

「逆時点修正」に対する否定・肯定両派の意見は概ね次の通りであろう。

<否定派>
●価格時点にはそれ以降の事例は存在しておらず、それを評価に反映させるべきではない。
●市場は将来を知らずに相場を形成している。
●これを許せば、過去に行った鑑定評価の結果を修正することが容易になり社会に混乱を招く。
●これを許せば、過去に行った鑑定評価の結果(鑑定評価額)がいつまでも確定しない。

<肯定派>
●価格時点前後の価格水準を把握・勘案することでその間の価格水準を正確に把握できる。
●過去の鑑定評価はその時点で可能な努力をしており尊重すべきだが誤りは修正されるべき。
●統計に速報値と確報値があるように、後からより正確な数値が出せるなら出すべき。
●不動産鑑定評価基準で「逆時点修正」を禁じる規定は見当たらない。

相続税路線価も、固定資産税路線価も、地価公示価格を基礎としているが、その地価公示価格は鑑定評価によって求められている。その鑑定評価額が、後になって見直されるようでは、社会的混乱の発生は避けられない。したがって、実務上は否定せざるを得まい。そういったことから、現状では否定派が優勢と考えられる。

しかし「あの時はこう思っていたが、その後の状況を見てみれば実はこうだったんだな・・・・」というのもよくある話だ。

また、株価等、日々変動する数値を移動平均によって中長期的動向を把握するという考え方もある。「偶然誤差」を取り除き、滑らかなトレンドを見ることができる。前後2日間(計5日間)の平均とか、前後12日間(計25日間)の平均など、過去になれば様々な数値を作ることができる。それもまた超長期的な地価の変動を理解する上で参考となる見方かも知れない。

過去のみを見て分かる今と、将来になってから分かる今があってもよかろう。


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