BRIEFING.614(2024.02.19)

特定道路による容積率の緩和と道路斜線制限(1)

土地に許容される容積率は、都市計画による指定容積率の他、前面道路幅員によっても制限される。指定容積率が600%の商業地域であっても前面道路幅員が6mであれば、それに一定の割合(6/10、住居系地域なら4/10)を乗じ、次のように計算される(建築基準法52条2項)。

 幅員6m × 6/10 = 360%

しかし、幅員の広い道路から分岐した狭い道路に面した土地の容積率が、急に制限されるのを避けるため、幅員15m以上の道路(特定道路という)から70m以内の宅地については、その距離に応じて容積率を緩和する特例が設けられている(建築基準法52条9項)。

前述の土地が特定道路から30mに位置するとすれば、容積率は次のように計算される。特定道路から近い土地ほど指定容積率に近い容積率を享受することができるしくみだ。

 (12m−6m) × (70m−30m)/70m ≒ 3.43m
 (6m + 3.43m) × 60% ≒ 566%

だが、これとは別に道路斜線制限(建築基準法56条1項、別表第三)による高さの制限があることに留意しなければならない。これは、建築物の各部分の高さが前面道路の反対側の境界線までの水平距離の1.25倍(住居系地域)または1.5倍(商業・工業系地域)以下に制限されるものである。道路の反対側から当該土地に向かって1:1.25、または1:1.5の斜線を立ち上げ、それに引っかからないように建物の高さを制限すると考えると分かり易い。道路から見上げて建物の前面が階段状、あるいは斜めにセットバックしている、あれである。

道路斜線制限は、道路の日照・採光・通風を確保し圧迫感を排除する趣旨であり、直接的に容積率を制限するものではないが、間接的あるいは結果的に容積率を制限するものとなる。そしてこの間接的な制限は、特定道路による容積率緩和に、大きな期待を寄せることを許さない。

例えば、幅員6mの道路に面する100uの土地(間口10m×奥行10m)があるとする。商業地域で指定容積率は600%だが前面道路幅員によってそれが360%に制限されるものの、特定道路からの距離が30mで、容積率は566%に緩和されるとする。この土地に、道路斜線制限を考慮して建てられる建物はどんなものになるだろうか。隣地境界線に沿って50cm空ける(建築面積は間口9m×奥行9.5m=85.5uとなる)として試算してみる。


 
階高(m) 建物奥行 (m) 建物間口 (m) 床面積(u)
  累計   累計
3 18  3.5  9.0 31.50 405.00
3 15  5.5  9.0 49.50 373.50
3 12  7.5  9.0 67.50 324.00
3  9  9.5  9.0 85.50 256.50
3  6  9.5  9.0 85.50 171.00
3  3  9.5  9.0 85.50  85.50
  −   − 405.00   −

上表の通り、4階以上は階段状にセットバックせざるを得ず、6階は狭すぎて非合理的なので、5階までとすれば、延床面積は373.50u(使用容積率373.5%)で、特定道路による緩和のない容積率360%と大差ない。次回は建物全体をセットバックさせて道路斜線の緩和を想定してみる。


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