BRIEFING.615(2024.02.26)

特定道路による容積率の緩和と道路斜線制限(2)

土地に許容される容積率は、都市計画による指定容積率の他、前面道路幅員によっても制限される。但し、幅員15m以上の道路(特定道路という)から70m以内の宅地については、その距離に応じて容積率を緩和する特例が設けられている(建築基準法52条9項)。

前回は、指定容積率600%の商業地域における前面道路幅員6mで面積100u(間口10m×奥行10m)、特定道路から30mに位置する土地を想定して使用可能な容積を試算した。その結果、許容される容積率は以下の通りだが、結局、道路斜線制限による間接的な容積率制限で、特定道路による直接的な容積率緩和が生かし切れないことを示した。

 (12m−6m) × (70m−30m)/70m ≒ 3.43m
 (6m+3.43m) × 60% ≒ 566% > 6m × 6/10 = 360%

今回は、建物を前面道路の境界線から後退させ、道路斜線の緩和(建築基準法56条4項)を適用して再試算してみる。後退(セットバック)により、反対側(道路の向かい側)も同様に後退したとみなせるのだ。ここでは2mセットバックし、2+6+2=10m向こうから道路斜線を立ち上げる。

なお前回同様、建物は隣地境界線に沿って50cm空ける(建築面積は間口9m×奥行7.5m=67.5uとなる)ものとする。


 
階高(m) 建物奥行
(m)
建物間口
(m)
床面積(u)
  累計   累計
3 21   3.5   9.0 31.50 418.50
3 18  5.5  9.0 49.50 387.00
3 15  7.5  9.0 67.50 337.50
3 12  7.5  9.0 67.50 270.00
3  9  7.5  9.0 67.50 202.50
3  6  7.5  9.0 67.50 135.00
3  3  7.5  9.0 67.50  67.50
  −   − 418.50   −

前回は4階以上をセットバックしなければならなかったが、建物全体を2mセットバックさせることにより、今回は上表の通り、6階以上のセットバックで済んだ。7階は狭すぎて非合理的なので、6階までとすれば、延床面積は387.00u(使用容積率387%)で、やはり特定道路による緩和のない容積率360%と大差ない。前回は373.5%であったから、ややマシではあるが。

特定道路による容積率の緩和は、一見ありがたい制度であり、大きな期待を抱かせてくれる。しかしながら道路斜線制限を考慮して建物のボリュームを検討してみると、その期待が過大なものであったと気づく場合が多い。

前面道路幅員による容積率制限(幅員×6/10、または4/10)は、道路斜線による高さ制限(前面道路の反対側からの水平距離の1.5倍または1.25倍以内)と関連付いていると言ってよいだろう。そこに、特定道路からの距離という緩和で、前者のみが緩和されたとしても、その効果は限定的である。

道路斜線制限にも、2つの道路に面している場合の「2道路緩和」(建築基準法令132条)があるが、広い道路に近いというだけでは適用されない。両制度で整合した緩和策が望まれる。


BRIEFING目次へ戻る