BRIEFING.66(2003.10.23)

「敷引き」は無効?(2)

ある人が自宅の建替えのために6ヶ月間だけマンションを借りることになった。敷引き(または権利金)が割高になるのは覚悟の上だ。ところがこの人は、黙って賃借して中途解約すればよいものを、契約前に「実は6ヶ月間だけ・・・」と正直にしゃべってしまった。すると賃貸人は契約を断ってきた。そんな短期間では貸しても損が出るだけという訳である。

期間が1年未満と分かっていて喜んで貸す賃貸人は少ない。断らなくても、通常より多い敷引き(または権利金)や割増し賃料を求めてきたりする。

また、最初から敷引きを入居期間によって段階的に定めている契約もある。2年未満なら敷金の50%、それ以上なら30%という具合である。長く住んでくれるなら敷引きは少なくてよいのである。

ところで、消費者契約と認められる、対個人の賃貸に限り、敷引き(または権利金)を収受してはいけないとなった場合、賃貸人はどういう行動に出るであろうか。おそらく法人限定、または個人契約の場合の賃料割増しである。その結果は、一部の短期間の賃借人を保護して、多くの他の賃借人に損害を与えるということになる。

では敷引き(または権利金)を認めた場合、それはいくらぐらいが適正か。

判決に係る事件では、敷金40万円、うち、敷引き30万円、入居期間は約6ヶ月間であった。賃借人にとって6ヶ月で30万円はつらいが、賃貸人にとっても同様である。次の契約のための広告料や仲介手数料で10万円、クロスの張替え・畳の表替え等で10万円、交代期間の空室損失で10万円と、すれば賃貸人の不当な儲けとは言えまい。この事件では自然損耗がなかったというが、一般に6ヶ月間使用されればそのままで次の賃借人に入居してもらえる状態ではないだろう。自分の汚した部屋なら10年間使えても、他人の汚した部屋は使えないからである。

だが、本当に清掃程度で入居可能な状態である場合もあるだろう。借りてはいたがほとんど使用していなかったとか、わずか1ヶ月で解約せざるを得なかったような場合だ。このような場合には、不要となった費用相当額を返還すべきであろうか。

しかし、ホテルに宿泊して、バスを使わなかったから、あるいは、バスタオルや浴衣を使わなかったからといって、その分の清掃代や洗濯代を返せという人はいない。マンションの場合もこれに倣うべきではないか。

返還を認めれば、自然損耗の有無についての不毛な議論と鑑定の泥沼に陥ることになるであろう。

マンションによっては、敷引き(または権利金)をたくさん取るが賃料は安いというもの(長期の賃借人に有利)があってもよい。反対に全く取らないが賃料は高い(短期の賃借人に有利)というものがあってもよい。選択するのは消費者である。そして消費者から選択されないマンションは存続し得ない。重要なことは条件を明確に表示することである。


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