BRIEFING.94(2005.7.4)

鑑定評価の依頼者性善説と性悪説

不動産鑑定評価の基本的事項のひとつに、対象不動産の確定という作業がある。対象不動産を物的に確定するとともに、所有権及びそれ以外の権利を確定するのである。

それには、鑑定評価の依頼目的及び条件に照応する対象不動産と、現実の利用状況とを照合するという作業が必要である。

たとえば、減損会計における正味売却価額の評価に当たり、当然一緒にグルーピングしておくべき不動産が依頼者の指示する「対象不動産」に含まれていなければ、それを指摘すべきである。

また、賃貸中のビルであるのに、自用のビルが「対象不動産」と指示されれば、現実と相違する旨、指摘しなければならない。

ところが、普通はそれに気付かないようなケースもある。

何十筆もの土地からなる1つの画地のうち、依頼者の指示から1筆が抜落ちていても、それを発見することは難しい。固定資産税の一覧表を見せてもらってチェックしたが公衆用道路であるため非課税で掲載されていないこともあった。

また、百貨店の売場を見て、どこが直営でどこが賃貸か、わかるだろうか。賃貸に見えても実は営業委託や販売委託であったり、直営に見えても実はテナントであったりと言うことは多い。外観からは判断できない。

敷金返還債務も嘘をつかれればわからない。賃貸借契約書で確認するのが原則だろうが、コピーをもらうだけで済ませたり、件数か多い場合には一覧表をもらうだけで済ませたりすることもあろう。賃貸借契約書の本書を見せてもらっても、その後の増額の覚書を出してもらえなければ騙される。

会計監査では、賃借事務所に係る預入れ敷金の額を、賃貸人(建物オーナー)に問合わせることがある。鑑定評価でも、賃借人に問合わせるぐらいのことをすべきかも知れない。

意図的隠蔽、虚偽はない、とするのが今の鑑定評価の立場ではなかろうか。すなわち依頼者性善説である。しかし、依頼者にはその誘因・動機が十分にある。性悪説をとるべきかも知れない。


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