BRIEFING.458(2018.02.01)

事情補正の一方向説と双方向説(3)

前回は、従来から不動産鑑定評価基準で認められている限定価格及び特定価格等は、実は一種の「事情の加味」なのではないかということを指摘した。

前者は隣接地の併合取得といった客観的に外部から観察し得る事情を、価格に反映させたもので、後者は還元利回り等に投資目的という事情を反映させたもの等と言うことができる。

この他、本来は事情を考慮して正常価格とは異なる価格として概念すべき鑑定評価額もある。

公共用地取得に係る任意取得価格(補償額)に係る鑑定評価額である。

正常価格としながらも、実態はそれを上方に乖離した「買収価格」を評価していることも多いやに聞く。公共のためとは言え、売りたくない物を売らされるという事情を踏まえれば上方乖離は当然だ。しかしそれは正常価格ではないだろう。

どうせなら用地買収といった「事情の加味」を認め、正常価格でない鑑定評価額の一種として求めるべきではないか。

それとなく「事情の加味」をしつつ、それを「正常価格」だと言い張ることは、不動産市場が築いてきた一連の価格秩序を乱すことになり好ましくない。

その点、証券化対象不動産の「特定価格」という概念は、投資目的という事情を評価に織り込んだもので、「正常価格」では対応できなかった社会の需要に応えることができ、大いに評価されるべきものである。

そこで、これに準じ、様々な事情を鑑定評価額に織り込むことにより、より多様な社会の需要に応え、「正常価格」の枠に押し込められて歪になっていた鑑定評価額を、あるべき姿に解き放つべきではないか。

さて、それに際して問題となるのは、主観や経営判断を測るモノサシがあるか、また、不動産鑑定評価を担う者にそれを使いこなせるだろうか、ということである。

市場では、日々特殊な事情を抱えた取引が行われている。

来店客のための駐車場を、店の敷地の隣かまたはその近辺にどうしてもほしい、という経営者が、拝み倒して隣接地を高額で買った。凡人は「そんなに高く?」と思っても経営上は適正な価格であるかも知れない。

その価格の適正性を、不動産鑑定評価は、社外役員や株主に説明し得るだろうか。あるいは、不動産鑑定評価に出る幕はないのだろうか。

「事情の加味」が難しい作業であることは間違いない。

しかし、それよりさらに難しいはずである「事情補正」(事情の排除)をさらりとやってのける実力者には容易なはずである。


BRIEFING目次へ戻る