BRIEFING.65(2003.10.20)

「敷引き」は無効?(1)

建物、特に住宅の賃貸借に際し、賃借人から賃貸人へ支払われる一時金を客観的に大別すると、次の2つに分けられる。

@解約・明渡し時に返還されるもの
A返還されないもの

@は通常、敷金、保証金と呼ばれ、Aは権利金、礼金と呼ばれる。また、ややこしいことに、@とAを含めて敷金、保証金と呼び、そのうちのAの部分を敷引き、解約引きと呼ぶこともある。

先日、大阪簡裁は、敷金返還訴訟にも消費者契約法の適用があると判断し、契約時に充分な説明がなかった上、自然損耗も認められないとして、@Aを含めた性格であった敷金の、全額返還を命じた。

確かに十分な説明がなかったとすれば妥当な判決だろう。以下では十分な説明があったとした場合について、問題を整理してみる。

まず、留意すべきは2つの問題を区別して考えなければならないことである。

(ア)敷金という名称に@Aを含む「内数表示」をすることの可否。
(イ)「内数表示」「別途表示」を問わずAを取ることの可否。その金額の適否。

(ア)は形式の問題、(イ)は実質の問題である。

まず、形式問題については、これによって本質を左右してはならないと考える。事実、税務上はどちらの表示形式かにかかわらず、実質的な性格に着目して処理している。しかも関西では「内数表示」が主流で、この昔からの習慣をいきなり否定してしまうのはいかがなものか。

実質問題については、近年批判が高まっているが、ある意味で、Aを取る方が合理的とも考えられる。というのも、賃借人の交代に際しては、賃貸人に様々な費用が必要となってくるからである(BRIEFING.46参照)。

1年使ったクロスや畳と、10年使ったそれとは、確かに汚れ方が違う。しかしその交換費用は同じである。そしてその工事期間、及び次の賃借人が入居するまでの期間、部屋は空いてしまう。広告料、仲介手数料、審査費用等もかかる。これらの「交代費用」がAで賄われる(足が出る場合もあるが)と、これらを賃料に転嫁する必要もない。

回転のよい方がもうかるというのは過去の話で、足が出るおそれのある今日では、長く住んでもらう方が賃貸人にとってありがたいのである。Aは臨時収益ではなく、臨時費用の補填にすぎないのである。


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