BRIEFING.231(2010.10.14)

多数の宅地の時価は、個々の時価の合計?

販売用不動産である宅地やマンションを、期末に多数抱えている不動産業者は多い。

これらは棚卸し資産であり、「取得原価」と「時価」とを比較しいずれか低い方の価格をその貸借対照表価額としなければならない。

この場合の「時価」は「正味売却価額」であり、完成済みの販売用不動産の場合、「販売見込み額」から「販売経費等見込額」を控除したものとされている(BRIEFING.201参照)。

さて、ある不動産会社は、「時価」が「取得原価」を下回る百数十区画の完成済宅地を抱えている。

しかし、新聞にチラシを入れれば、週末には現地に数組の来客があり、月に2〜3件は契約があるといった状況であるから、今の販売公表価格の水準でも、広告宣伝費を投入し、2年程度の時間を掛けて少しずつ販売してゆけば全区画売却可能と見込んでいる。

つまり、1区画1区画の価格は間違いなく「販売見込み額」なのである。が、同一団地に生ずる需要は限られており、一度に売り出しても、供給過剰で直ぐには売れないといった状況でなのである。

また、価格水準を1割程度下げれば半年で完売するだろうとの感触もあると言う。

一方、これをまとめて住宅メーカー等に卸売りすれば、広告宣伝費は不要であるものの、価格は6掛けだと言う。

このような場合、全区画の「販売見込額」をどう判断すべきだろうか。1区画1区画の「販売見込み額」の合計でよいのだろうか。

取引事例比較法における地積過大の概念ではどうも対応しづらい(BRIEFING.027参照)。

この点、指標となるのが開発法による価格である。

開発法は広い意味で一種のDCF法と言えるが、一般的なDCF法が、賃貸を想定し収益分析期間後の復帰価格を永久還元法で把握するのに対し、開発法では、分譲を想定し最後は売り切ってしまう(すべて現金化する)という点で大きな違いがある。

確かに開発法に対してもDCF法と同じく、そんな先のことが分かるのかとか、割引率(開発法では投資収益率)の査定根拠が弱い、といった批判はある。しかし時間の概念が重要なポイントとなる本件のような価格の査定には不可欠な手法である。


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