BRIEFING.542(2020.10.22)

「計上主義」による減価償却費について

収益還元法の直接還元法において、減価償却費をどのように収益価格に考慮すべきかについては、BRIEFING.535536において「計上主義」「織込み主義」の2つの考え方があることを述べた。この内、近年は後者が優勢だが、今回は劣勢の「計上主義」における減価償却費について考察する。

まずその査定方法であるが、これについて不動産鑑定評価基準は多くを語っていない。したがって実務上、求め方は様々(これが「計上主義」劣勢となった原因の1つか)であるが基本は、建物価格÷年数である。具体的査定方法は次の2つに分けられる。なお、ここでは話が煩雑にならぬよう、建物価格を躯体・設備等に分けず残存価額も0とする。

@建物再調達原価 ÷ (経過年数+残存耐用年数)
A建物積算価格(再調達原価に減価修正を行ったもの)÷ 残存耐用年数

@を「再調達原価主義」、Aを「積算価格主義」と呼ぶこととする。実務上はAが多数派だ。なおAで次の式による減価修正を行ったなら@Aの結論に相違はない。

建物積算価格 = 建物再調達原価 × 残存耐用年数/(経過年数+残存耐用年数)

だが、Aで観察減価法による減価修正を行ったなら、@と相違が生じてくる。そしてAの減価が大きければ建物積算価格は小さくなり、減価償却費も少なく求められる結果になる。

このことは、今の(小さい)積算価格で今の総収益を得ているのだから、それを維持するには今の積算価格に見合った(少ない)減価償却費でよい、と説明できる。しかし逆に多額の投資(減価償却費の計上)をしなければ総収益の挽回ができないとも考えられ、違和感がある(これも「計上主義」劣勢の原因か)。

次に、再調達原価が、A新築時点のものか、B価格時点のものかという考え方の違いを指摘しておく必要がある。Aは過去の投資を回収・費用化するという考え方、Bは純収益の永久的維持を図るための今後の工事費用を積立てるという考え方だ。Aは、適正な費用配分による毎期の損益計算を目的とする企業会計の考え方に通ずるところがあり「取得原価主義」と呼ぶこととする。Bは「再築時価主義」と呼ぼう。

減価償却費は、企業会計上のそれと同一視されAも健在だが、実務上Bが多数派と思われる。尤も価格時点=新築時点であればどちらも同じだし、時点が違っていても両時点の建設物価に差がなければやはり同じだ。ただ、過去か将来かと言う視点の違いは大きい。整理すると以下の通りだ。

A取得原価主義・・新築時点の再調達原価の回収(過去に注目)
B再築時価主義・・価格時点の再調達原価の積立(今後に注目)

Bの場合、積立の途中で建設物価が上昇したら積立不足になりそうだが、積立てた金銭をその上昇率と同率で運用してゆくと仮定すれば大丈夫だ。なおBの立場なら、再調達原価に取壊し費用も加算すべきことになるが、ここでは大きな論点でないので省略する。

さて、不動産の買主(新所有者)が関心を持つのはその将来収益であるからAは首肯し難い。だが多数派のBも今後の純収益を永久的に維持する方法が具体的に描けていないという欠点がある。

以上のように「計上主義」が抱える問題は多い。一方の「織込み主義」は大雑把、どんぶり勘定の誹りを免れないが、市場の物差し(利回り)を利用している点で評価できる。「計上主義」劣勢やむなしか。


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