BRIEFING.152(2007.11.15)
一時金に見られる「囲い込み効果」と「追い出し効果」
建物の賃貸借の開始時には、賃借人から賃貸人へ、賃料等の定期金とは別に一定の一時金が授受されるのが一般的である。例えば次のようなものであり、それは将来返還されるもの(敷金等)と返還されないもの(権利金等)とに分けられる(BRIEFING.065、066参照)。
@敷金等・・・敷金、保証金、建設協力金ほか
A権利金等・・権利金、礼金、敷引き、償却ほか
このうちAは、一旦契約した賃借人を囲い込む効果があると考えられる。
賃借人が「せっかく払った限りは長く借りていよう」と考えるからである。
Aを払っていないのなら、いつ他に移っても惜しくない(引っ越し代、仲介手数料は必要だが)。
一時金の@Aの区分けを未確定としておき、期間が経過するにつれ、Aの割合を減少させてゆくという一時金もある。償却逓減型保証金と言える。
たとえば、入居期間が5年未満なら全額をAとし、10年未満なら半々、10年以上なら全額@とするといったような決め方である。
これは、長く居るほど賃借人に得なので、強い囲い込み効果が期待できる。
逆に長く居るほどAの割合を増加させてゆく償却逓増型もまれにある。この場合は追い出し効果が期待できる。
更新料も追い出し効果のある一時金である。但し一旦払えば次の更新時までは囲い込み効果を有するだろう。
建設協力金は、一般に契約期間中、毎年あるいは毎月、一定額を賃借人に返還してゆく一時金であるが、返還完了までに賃借人が解約した場合、その時点の未返還残高すべてを賃貸人が没収してしまうという特約が付いている場合がある。
これは、期間中、強力な囲い込み効果を発揮する。賃貸人が賃借人の希望に応じた建物を新築して賃貸する場合によく用いられる一時金であり、中途解約を防ぐという目的に叶っている。但し建設協力金は大変に高額であり、全額没収ではあまりに賃貸人に有利なのでこの特約が無条件に有効か否かは疑問がある(BRIEFING.025参照)。
@Aの一時金には、それぞれの由来や意義があるが、これらを無視して客観的に分析してみると、以上のような効果があると認められる。
一時金に関する類似の論点については、他にBRIEFING.102、103、117も参照されたい。